桜はもうとっくに散って、私は疾(と)うに昔の人間となってしまいました。

 今年で数年目の果敢無い雪、月が浮かび上がった空にひらひらと舞って逝きます。

 現し世とは違う幻想を帯びた世界に、私は息をのみました。



 遠い昔の記憶がゆらりゆらりと灯っては雪と一緒に溶かされて逝きます。

 今は美しき空から焔の雨が降り注いだこと、貴方の手を離したばかりに離れ離れになってしまったこと。

 私が望むのは、ただ貴方が幸せに生きていること。

 貴方にも何時かは見せたいこの風景、然しそれは、余りにも早過ぎる。

 それと同時に焦がれるような甘い恋心を抱く私は、現し世に住む貴方にとって、憐れに映っているのでしょうか。

 届かぬ腕で自らを抱きしめて、今夜も貴方を想いながら眠るのです。


『雪月夜』







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