15


 少女は果てしなく遠い、蒼々とした空を見上げた。
 高層ビルに囲まれた狭苦しい東京で。
 美しい空を、見た。


「ボクは、君のことを嫌ったりしない」

 疑われないためならどうしたらいいだろうと、自分なりに考えた結果だった。

『言葉なんて偽ろうと思えば何時でも偽れるでしょ』

 返ってきた言葉は、氷のように冷たかった。


 少女は視界一杯に広がる桜を見上げた。
 空の青と桜の桃色。
 散りながらも咲き誇る桜は、とても儚く美しいものだった。


「君はボクのことが嫌い?」

 何をどうやっても無駄だと気づいたときに、最後の最後までとっておいた言葉。
 それをここで今、使った。使ってしまった。

『ううん』

 この間返ってきた言葉が、嘘のようだった。


 二度とは訪れない時を感じながら、少女は息を吸い込んだ。
 閉じ込められた世界で見つけたもの。
 大切に繋ぎとめておきたくて、必死になった。


「じゃあ、ほんの少しだけ、ボクのことを信じてもらってもいい?」

『……いいよ』

 ――急に強い風が駆け回り、桜の枝は大きく揺れた。
 ひらひらと舞う花びらの中、姿は霞んで往く。
 散っていってしまう桜を少女は見送った。

 どこまでも。

「ありがとう」

 

 ――ボクたちはとても薄い繋がりから始まった。
 その種が芽吹き、たくさんの枝をつけ、花を咲かせた。
 何度も何度も散ってゆく花弁は、色々な感情を乗せて空へと舞う。

 ずっと続く。
 存在しないといわれた永遠は、ここにあるんだと。
 ボクは強く信じていた。

 


 

閉じる